記事「健康格差と長時間労働!生活習慣病の発症リスクを高める要因と企業がとるべき対処法」でご紹介したように、生活習慣病対策としてポピュレーションアプローチを取り入れる団体が増えています。

そこで今回は、テーマ「増え続ける生活習慣病に対するポピュレーションアプローチ」における「生活習慣病の予防対策」として、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの特徴、そしてポピュレーションアプローチの実践事例をお伝えします。

従業員の生活習慣病対策に興味のある方は、ぜひご覧ください。

ポピュレーションアプローチ、ハイリスクアプローチとは

生活習慣病対策に有効とされる、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチとは何なのか。
ここではその定義などをご紹介します。

ポピュレーションアプローチ、ハイリスクアプローチとは?

疾病の予防もしくは悪化を防ぐ手法として、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチがあります。

ポピュレーションアプローチとは、「多くの人々が少しずつリスクを軽減することで、集団全体としては多大な恩恵をもたらす事に注目し、集団全体をよい方向にシフトさせること」と定義されています (*1)。
わかりやすく言うと「集団全体への働きかけ」です。

それに対してハイリスクアプローチとは、「リスクの高い対象への働きかけ」です。
下の図で説明すると、「全体に働きかけて、集団全体のリスクを低減させる(集団の山を低リスク側へ移行させる)」のがポピュレーションアプローチ。
そして「リスクが高い一部の患者にのみ対処する(集団の山の一部を削る)」のがハイリスクアプローチとなります。
例えば「高血圧対策」で考えると、次のような違いがあります。

  • ポピュレーションアプローチ:企業の全社員に対して、減塩の取り組みを支援する
  • ハイリスクアプローチ:健診で高血圧と判断された人に対して、医療機関で受診させたり生活指導を行う

参考*1: 日本看護協会 やってみよう!!ポピュレーションアプローチ

生活習慣病予防には一次予防(健康の増進を図り、病気の発生を防ぐ取り組み)が重要であり、集団全体のリスクを低下させるポピュレーションアプローチは一次予防に欠かせない手段といえます。

企業での導入も進んでおり、後述するローソングループや、SGホールディングス (*2) でも取り入れています。
このようなポピュレーションアプローチを企業で進める場合は、PDCAサイクルとして設計していきます。

しかし、難易度が高いのが「Plan」の部分です。
「まず何を行うべきなのか、どこから手を付ければいいのかわからない」というケースが多いと思います。

そこで、次の図を参考に対策の検討を進めてみて下さい。
細かい手順ですが、こうして順に検討することで「課題解決の方法」や「評価の指標」が鮮明になります。

参考*2:健保ネット 事業所とともに肥満と禁煙でポピュレーションアプローチ


なぜ「ポピュレーションアプローチ」と「ハイリスクアプローチ」の併用が大事なのか?

それぞれ特徴のある「ポピュレーションアプローチ」と「ハイリスクアプローチ」ですが、どちらか一方ではダメなのでしょうか。
ここでは、2つの手法を併用することの利点をご紹介します。

従来の「ハイリスクアプローチ」の限界

これまで多く行われてきたハイリスクアプローチですが、生活習慣病に対しては限界がありました。
記事「健康格差と長時間労働!生活習慣病の発症リスクを高める要因と企業がとるべき対処法」(←記事3−2のリンクをお願いします)でもご紹介したように、ハイリスク者は「社会的弱者層」に多く、低所得や長時間労働に苦しんでいるケースが多いため、アプローチが行き渡らない可能性が高いのです。
ハイリスクアプローチで「健康に気を配るよう啓蒙」しても、健康に気遣えるのは「健康意識を気遣う余裕がある人」だけです。

さらに低所得層の4割は健診も受診しておらず、これではハイリスク者の把握すらできません。
これでは生活に余裕がなく、健康に気を配れない低所得者の健康格差は、拡大する一方です。

そのため、地域全体・企業全体・社会全体でポピュレーションアプローチにも取り組んでいく必要があるのです。

2つのアプローチは「健康問題解決の両輪」として相乗的に働く

ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチは、比べて「どちらが優れている」というものではありません。
対象となる健康問題や集団によって、どちらかを選択、あるいは組み合わせて実践することが求められます。
健康問題解決のための両輪として、2つのアプローチは相乗的に働きます。

例えば生活習慣病の発症予防を徹底する場合には、次のアプローチを適切に組み合わせて対策を推進することで、相乗効果が発揮されます。

  • 健康に関心のない人や、予備軍でありながら自覚していない人を含めて広く対象とする、ポピュレーションアプローチを行う
  • 生活習慣病の「予備軍」を早期に発見し、生活習慣の改善を促すハイリスクアプローチを行う

「健康格差」を拡大させないポピュレーションアプローチが大切

「ハイリスクアプローチでは健康格差を拡大させる」と前述しましたが、ポピュレーションアプローチであれば健康格差が全く影響しないわけではありません。
ポピュレーションアプローチでもやり方によっては、「健康に関心がある層」にのみ届き、「健康に関心を持たない、持てる状況にない層」を置き去りにしてしまうこともあるのです。

そのため、社会的に不利な人たちにも情報が届き、すべての人を対象にする「配慮ある普遍的対策」が重要です (*3) 。

企業であれば、業務に使用する端末に限定されず、すべての従業員に対して「健康に関する情報」が行き届くようにする。
業務内容に関わらず、すべての従業員が気軽に参加できる健康プログラムを整備する。
このような取り組みが必要になります。

参考*3:保健師のためのポピュレーションアプローチ必携


ポピュレーションアプローチの実践事例

それでは最後に、ポピュレーションアプローチを実践している団体の事例をご紹介します。

健康経営にポピュレーションアプローチを組み込んで実践【ローソン】

ローソングループでは2015年10月に健康経営宣言を行い、グループ全体での従業員の健康増進へ取り組んでいます。
その取組のひとつとしてポピュレーションアプローチを組み込んで、全従業員を対象にローソンヘルスケアポイント2018を実施しています (*4) 。
これは、下図のメニューにあるタスクで健康について学んだり確認を行うことで、ポイントが付与されるプログラムです。

たまったポイントは、Pontaポイントと交換できるとのこと。
健康に関する知識を学べて、Pontaポイントがもらえるというのは羨ましい取り組みですね。
参考*4:ローソングループ 健康白書2019

「げんげん運動」で町民自らが健康行動【福井県美浜町】

「へしこ」が有名な福井県美浜町では、町民の高血圧が問題となっていたため、減塩と減量を目指す「げんげん運動」を2013年から行っています。その特徴は、町民自らが参加して啓発やPR活動を行っていること。
実際に「げんげん運動」を実践した町民から効果のあった実践法を聞き、「げんげん運動実践事例集」としてまとめています。

他にもサポーター企業・役場・事業所との連携や、学校との協議、モデル地区を指定しての住民との活動なども行っています。
その結果「高血圧の治療を受ける人が減る」などの成果がありましたが、「メタボ該当者が多い」という課題も残りました。
そこで2018年度からは、減塩・減量に「運動」を加えた「げんげん歩楽寿(プラス)」を始めており、より効果的な健康づくりを進めています。


まとめ

今回は、テーマ「増え続ける生活習慣病に対するポピュレーションアプローチ」における「生活習慣病の予防対策」として、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの特徴、そしてポピュレーションアプローチの実践事例をお伝えしました。
コストはかかりますが、やり方次第では組織の一体感を高める効果もあるポピュレーションアプローチ。
ハイリスク者にピンポイントでアプローチできる、ハイリスクアプローチ。従業員の健康維持のために、2つの手法を併用した導入を検討してみてはいかがでしょうか。