起業に際して不可欠なのが事業運営資金です。
適切な資金がなければ、新たなビジネスの立ち上げは困難となります。
通常、事業資金は自己資本で賄われますが、資金が不足する場合は金融機関からの融資や、家族や親戚からの資金調達を行う方法も検討されます。
本記事では、親族からの融資が自己資本に含まれるかどうかの疑問に答えるとともに、返済義務や注意すべき点について詳しく解説します。
起業時に親族から資金を借り入れようと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
親族からの融資は自己資本に含まれるか?
自己資本とは、起業のために個人が蓄えた資金のことを指します。
先述の通り、基本的に事業運営資金は自己資本で賄うものですが、資金不足を補うために親族からの融資を利用するケースもあります。
しかし、起業時に金融機関からの融資を受けるのは容易ではありません。
特に初めての起業の場合、過去の実績がないため、将来的な利益の見込みや確実な返済が見込めないことが理由です。
そのため、事業計画書の内容とともに、確保されている自己資本の割合が厳格に審査されます。
この際、親族からの融資が自己資本として認められない場合もあるため、注意が必要です。
しかし、親族からの融資が全ての場合において自己資本として認められないわけではなく、状況に応じて自己資本として評価されることもあります。
例えば、自己資本が十分であれば金融機関からの融資額も増加する可能性があり、自己資本に少額の親族融資を加えることで融資額を引き上げることが可能です。
実際に、自己資本が100万円の場合、自己資本のみでは融資が難しかったものの、親族から200万円の融資を受けることで融資が可能となった事例も存在します。
親族からの融資には返済義務が伴う
親族から資金を借りる際、金融機関からの融資のように正式な契約書を交わすことは少ない傾向にあります。
そのため、返済額や返済期限についてトラブルが発生する可能性もあります。
しかし、基本的には親族からの融資であっても金融機関からの融資と同様に返済義務が生じ、利息も発生することを念頭に置いておく必要があります。
借用書・金銭消費貸借契約書の作成
借用書は基本的に借り手側が作成するものです。
親族間での金銭トラブルを避けるためにも、親しい間柄であっても資金を借りる際は借用書や金銭消費貸借契約書を作成することが重要です。
これらの書類は公正証書として作成することも可能です。
書類には融資金額だけでなく、返済期限や返済額などを明記しておくべきです。
贈与と見なされるリスク
贈与とは、無償で財産を譲渡することを指します。
親族から資金を借りる際、あらかじめ返済期限を設定しない場合、借り入れではなく贈与と見なされ、贈与税が課される可能性があります。
お互いに借り借りの意識があっても、返済期限がない場合は贈与と見なされることがあります。
金融機関からの融資では返済期限が必ず設定されますが、親族間では返済しないケースもあり、この場合贈与税が発生する可能性があることを理解しておきましょう。
出資という選択肢
借り入れではなく出資として資金調達を行うことも可能です。
親族間でも借り入れがあると金融機関からの融資が受けられない場合があるため、このような場合は出資が適しています。
ただし、出資を受ける場合は株式会社として運営し、出資者の出資額が多いと株主総会での議決権に影響が出ることがあります。
親族間でも議決権の移動によりトラブルが発生する可能性があるため、出資の割合を調整し、自己が過半数の議決権を保持できるようにする必要があります。
親族からの融資に関するケーススタディ
親族から資金を借りた際に考えられるケースについて見ていきましょう。
各ケースに応じて適切な対処法が異なります。
元金のみ毎月返済、利息は未払い
金融機関からの融資では、毎月の返済額に利息が含まれますが、親族からの融資では利息を支払わない場合が多いです。
そのため、利息分を支払わない場合、「利息分が贈与されている」と見なされ、贈与税が課される可能性があります。
ただし、贈与税が課されるのは贈与額が110万円を超えた場合のみです。
利息が110万円以下であれば贈与税は発生しません。
元金も返済していない場合
親族から借りていて定期的に返済していない場合、本来の貸借関係とは認められず、贈与と見なされます。
返済をしない場合や、利益が出た際に返済するといった約束の場合も含まれます。
これらの場合、元金全額に対して贈与税が課されるため、借用書に基づいて元金と利息を適切に返済する必要があります。
また、借り手と貸し手の双方が専用の口座を設け、資金のやり取りを契約書通りに行うことが重要です。
贈与税の概要
贈与税は、その年の1月1日から12月31日までに受け取った財産の総額に基づいて計算されます。
総額から基礎控除額110万円を差し引いた残額に対して税率が適用されます。
基礎控除後の金額がない場合、贈与税は発生しません。
贈与税の税率は、基礎控除後の金額に応じて異なります。
兄弟間や夫婦間、親から子ども(未成年者)への「一般贈与財産用」と、祖父母から孫や親から子ども(成人済み)への「特例贈与財産用」で税率が異なります。
- 「一般贈与財産用」の税率:
- 200万円以下:10%
- 300万円以下:15%(控除額10万円)
- 400万円以下:20%(控除額25万円)
- 600万円以下:30%(控除額65万円)
- 1,000万円以下:40%(控除額125万円)
- 1,500万円以下:45%(控除額175万円)
- 3,000万円以下:50%(控除額250万円)
- 3,000万円超:55%(控除額400万円)
- 「特例贈与財産用」の税率:
- 200万円以下:10%
- 400万円以下:15%(控除額10万円)
- 600万円以下:20%(控除額30万円)
- 1,000万円以下:30%(控除額90万円)
- 1,500万円以下:40%(控除額190万円)
- 3,000万円以下:45%(控除額265万円)
- 4,500万円以下:50%(控除額415万円)
- 4,500万円超:55%(控除額640万円)
親族から事業資金を借り入れする際の注意点
親族から事業資金を借り入れる場合、具体的にどのような点に注意すべきかを見ていきましょう。
贈与税を回避するための証拠作り
贈与税を避けるためには、貸借関係を証明する証拠を残すことが重要です。
具体的には、「借用書の作成」を行い、その内容に基づいて「口座を通じた資金の移動」を行うことが必要です。
利息の記載や支払いも行うことで、贈与と見なされるリスクを減少させることができます。
事業計画の詳細な説明
金融機関からの融資には事業計画書が必要ですが、親族からの資金調達時には事業計画書を作成する方は少ないようです。
しかし、「どれだけの資金を提供してもらい、どのように使用するのか」を説明することは、起業者の責任です。
また、事業計画書を作成・説明することで、計画の具体性を高め、再評価する機会にもなります。
口約束を避ける
前述の通り、口約束は贈与と見なされる可能性があるため避けるべきです。
親子間など親しい関係であっても、資金を借りる際には確実な返済が必要です。
口約束に頼らず、正式な借用書などの文書を準備しましょう。
貸借関係を証明するためにも、資金の流れが明確になるようにすることをお勧めします。
自己資本の確保
起業する際には、自己資本も確実に確保しておくべきです。
自己資本が十分であれば、親族からの融資を必要としない場合もあります。
最初から親族に頼る前に、自己資本を確保し、資金不足時には金融機関からの融資を検討することが重要です。
融資を受ける際に親族からの融資が必要な場合は、事前にお願いするなど、順序を決めておくと良いでしょう。
出資者には経済的余裕のある方を選ぶ
出資を受ける場合は、生活資金に余裕のある方に依頼することが重要です。
出資した企業が成功すれば出資者に利益が還元されますが、失敗すれば出資金が戻らない可能性が高いです。
出資者自身の経済状況を考慮し、無理のない範囲で出資を依頼することが大切です。
自己資金不足によって親族に負担をかけないよう、出資依頼は余裕のある方に行いましょう。
まとめ
本記事で紹介した通り、事業資金が不足した場合、親族からの融資を検討する方が多いです。
融資を受ける方法としては、金融機関からの資金調達もありますが、返済期間や利息の関係で親族からの融資を選ぶ方もいます。
しかし、親族間の融資は贈与と見なされるリスクがあるため、注意が必要です。
贈与税が発生すると、基礎控除額110万円を超えた部分に対して税金が課されます。
親族間でも貸借関係を証明するために、借用書を作成し、返済期限と利息を設定することが重要です。